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新規2chコピペブログ  Special Thanks to 1年前のまとめブログ

■ξ゚⊿゚)ξは監禁されているようです

1 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 19:01:17.11 ID:YAowBMNc0
恐ろしく読みにくい上に、閲覧注意の方向でいきます。


3 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 19:02:10.93 ID:YAowBMNc0
ある日、目を覚まし、飛び込んできたのは見知らぬ天井。
ソレは濁りない真っ白なキャンパスのようで、私はしばらくぼーっと見とれてしまいました。

もっとも、それは頭が混乱していたからなのでしょう。
何故こんなとこに居るのか、そもそも、ここは一体何処なのか。
疑問は時間の経過と共に、とめどなく溢れ出てきていました。

困りました、とりあえず体を起こします。
すると体の節々から、軽い痛みを感じました。
外見からでは分かりませんが怪我をしているみたいです。

軽い打ち身なのでしょう。
痛みを感じる箇所をさすって、改めて周りを見渡してみます。


4 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 19:04:14.16 ID:YAowBMNc0
フローリングの床、壁は、天井と同じく汚れ一つない潔白。
必要最低限、といった程度の家具しか置かれていないので、とても無機質です。
生活感もあまり感じなかったので、ちょっとだけ心細くなりました。

唯一救いなのは、ベランダから差し込む陽光が眩しかったことでしょうか。
現在の時刻を朧けにすることが出来たし、、仄かに感じる暖かみが、私の心を和らげていくかのようでした。
外の光景から察してみるに、ここは高層マンションの、かなり上部の階層に存在していることも分かりました。

しかし、ベランダの窓を開くことは叶いませんでした。
予想はしていたことでしたが、肩を落とさない訳にはいきませんでした。

少しばかり重たい体を引きずって、今度は玄関の方を見てみることにしました。


5 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 19:06:49.85 ID:YAowBMNc0
だけど、私はそこで愕然としました。
玄関には、幾重にも備えられた鍵が、脱出不能を明確に物語ってたからです。
元から設置されていた鍵はもちろん、鎖状のものや、南京錠などが二桁の量に及ぶほど付けられています。

あまりのショックに尻もちをつくと、私は更なる絶望に捉えられることになりました。
玄関には鍵だけではなく、ガムテープで厳重に目張りもなされていて、虫一匹通さない状況になっていたのです。

内側からも、外側からも出入り出来そうにありません。
この錠を為した人の意気込みが嫌でも伝わってきました。

私はここまできて、ようやく認めたくない事実を実感してしまいました。


ああ、私は監禁されている――と。



6 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 19:09:44.47 ID:YAowBMNc0
気づけば、私の頬を温かい何かが伝っています。
それは涙でした。自分でも気づかない内に零していたようです。

深い落胆と共に、憤りさえ湧いてきました。


――なんで、私がこんな目にあわなくちゃいけないの?
――私をこんなとこに閉じ込めたのは一体誰?


もちろん、その問いに答えを示してくれる人は誰もいません。
私の嗚咽は、深い静けさの中で一瞬だけ響き、吸いこまれて消えていきました。
その儚さは、私の心の脆さを表しているかのようで、より一層、涙が溢れてきました。

しかし、泣いてばかりもいられません。
洋服の裾で涙を拭い、他の脱出口があるか一応調べてみようと意気込んだ時のことです。
不意に、背後で、ドサリと大きなものが落ちたような音がしました。


7 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 19:12:08.21 ID:YAowBMNc0
突然の出来事に私はビクリと肩を震わせてしまいました。
もしかしたら、犯人が現れたのかもしれないという不安が頭を過ったのも一因でしょう。
ですが、その音を立てた主は、呑気な声で呟きました。

(;^ω^)「いてて……一体、なんなんだお」

少しばかり信じられませんでしたが、それは間違いなく私の恋人であるブーンでした。
私の緊張の糸は完全に緩み切り、先ほど泣かないと心に誓ったばかりだったことも忘れ、
彼に飛びつき、その腕の中でわんわん泣き喚きました。


(;^ω^)「お?お?
        よく分からないけど怖かったのかお?」

そうです、その通りなのです。
怖くて、恐ろしくて、心細くって、貴方に助けてほしかったのです。

突然現れたブーンの姿が、小さい頃に夢見ていた白馬の王子様の姿と重なりました。
ちょっと小太りの、間抜け面な王子様ではありましたが。


9 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 19:14:37.26 ID:YAowBMNc0
しばらく、というより喉が枯れるほどでしたから、かなりの時が過ぎた後。
少々の説明を施してから、私はブーンにいくつかの質問を尋ねました。

( ^ω^)「僕も分からないけど、気づいたらここにいたんだお。
        なんだか、何処かからワープしたような気分だったお」

もう一つ質問です。

( ^ω^)「僕にもこの場所がどこなのかは分からないお。
        それより、ツンの方こそ、どうやってここに来たんだお?」

それを聞いて、頑張って頭を悩ませましたが、何も思い出せません。
眠りから目覚める前の記憶だけが、ぽっかりと抜け落ちているかのようでした。

( ^ω^)「ツンとデートしていたところまでは覚えてるんだけど……」

私もです。遊園地に行って、楽しんだのまでは覚えています。
その帰り道辺りから……記憶がありませんでした。


10 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 19:16:56.78 ID:YAowBMNc0
しばしの沈黙が続いた後、私は、ばっと立ち上がりました。
ブーンに抱かれたままだということに、気付いてしまったからです。

( ^ω^)「別にそのままで良かったのに……やぁらかくて気持ち良かったし」

とりあえず、一発、頬にビンタをいれておきました。
恥ずかしいのもあるし、えっちぃのは嫌いです。


ふと思い出したのですが、私は他の脱出口があるか調べようとしていたんでした。
その事をブーンに伝えてみると、

( ^ω^)「賛成だお!さっそく探してみるお!!」

快諾してくれました。
朗らかなブーンの笑顔は、こんな危機的状況下でも私に元気を与えてくれます。


13 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 19:19:52.20 ID:YAowBMNc0
台所には、外に出られるような隠し口はありませんでした。
唯、冷蔵庫の中身がやけに満たされていることや、カップ麺が充実し過ぎていること。
挙句の果てには保存食まで多大な量が残されているのは不思議に思いました。
もっとも、餓死の危険性がなくなったので、幸いなことなのかもしれません。

( ^ω^)「……ツンの料理が食べたいお」

何を呑気なことを、と頭を叩きました。
でも、その、機会があれば作ってあげようと思います。


勘違いしないでください。あくまで自分の分の料理のついでに、です。
決して、ブーンの為に作る訳じゃありません。

( ^ω^)「…………」

ニヤニヤした笑みを浮かべながら、ブーンが私の顔を眺めていました。
なんなんでしょう、ブーンも、頬を赤くしている自分も、理解出来ません。


16 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 19:23:02.50 ID:YAowBMNc0
トイレは、ちょっとだけ期待していましたが駄目でした。
映画や漫画でよく見る、換気扇を外した先にある通路という物の存在を渇望していたのです。
しかし、どう考えても子供一人すら通ることの出来ない、パイプに繋がっているだけでした。

( ^ω^)「残念だおー、でも綺麗なトイレで良かったお」

どうして、と尋ねると。

( ^ω^)「ツンは綺麗好きだから、汚いと悲しむと思ったんだお」

こんな時に、そんな小さな気遣いをされても嬉しくなんかありません。
本当に、これっぽっちも、嬉しくなんかないんです。

( ^ω^)「…………」

だから、私の顔をにやけながら、覗き込むのは止めてください。


18 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 19:24:59.06 ID:YAowBMNc0
あらかた調べてみたものの、脱出の糸口になる様なものはありませんでした。
電話も置かれていないので、外部に連絡をとることも叶いません。

ベランダの窓を割ることも考えましたが、ベランダの両脇は壁で塞がっていました。
飛び降りなんてすれば、それこそ即死です。
結局、窓を割るだけ無駄という結論に達し、私は元居たベッドのある部屋で佇んでいました。

すると、ブーンが突然言いました。

( ^ω^)「こっちにある部屋はもう調べたのかお?」

ブーンが指さす方向には、壁と同じ色をしたドアがありました。


20 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 19:27:22.67 ID:YAowBMNc0
よっぽど注意が散漫していたのでしょうか、全く気付きませんでした。
もっとも、ドアノブの銀以外は、壁と同色なので保護色の役割を果たしています。
しかし、それを踏まえても今まで気付かなかったのは異常と言えました。

( ^ω^)「ツンは何だかんだでおっちょこちょいだお」

年中、三箇日を過ごす父親の様な、緩みきった顔を浮かべている貴方に言われたくありません。
言い合いするのは程々にして、早速調べてみようと思います。


右手でドアノブを掴み、ゆっくりと回し、扉を開きました。


22 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 19:29:46.62 ID:YAowBMNc0
…………?

目を開くと、そこには見知らぬ天井。
いえ、その天井には見覚えがありました。

とりあえず体を起こしてみると、体中に痛みが走りました。
それは気が滅入る程重く、ずんとくる鈍痛で、特に下腹部の辺りが酷いです。
患部を手で押さえながら、思考を巡ってみることにしました。

そういえば前回、もしかしたら昨日、も同じように目覚めた様な気がします。
場所も変わっていません。ベランダの窓から僅かに差し込む光が、無機質な部屋を照らしていました。

ただ、外の天候が、爽やかな晴天ではなく、しとしとと降り注ぐ雨の日に変わっています。
前回が昨日であるという可能性は、ぐっと高まりました。


24 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 19:32:26.25 ID:YAowBMNc0
どういうことなのでしょう。
昨日、私は一体何をしていたんでしょうか。
少し思い返してみます。

この部屋を探索した後、玄関へ行きました。
玄関は厳重に閉ざされていて、脱出不可能で、泣きそうで……。

……泣きそうで、泣きそうだったけど……。
そうだ、ブーンに慰めてもらったんでした。


( ^ω^)「呼んだかお?」

ふと気付くと、私の目の前には恋人の姿がありました。
相も変わらずの腑抜け面が、目と鼻の先にあるものですから、私は思わず噴き出してしまいました。

(;^ω^)「よく分かんないけど、なんか凄く失礼な気がするお」

ごめんなさい、でもちょっぴり元気を取り戻せました。
やはり貴方は、私にとって、太陽みたいな存在です。


27 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 19:35:28.63 ID:YAowBMNc0
もっとも、こんな事を本人に言えるはずもありません。
一しきり笑った後、私は昨日の事を、ブーンにもう一度、尋ねてみることにしました。
えーと、確か、ブーンに出会った後ですから、あそこの扉を開いてからのことです。


( ^ω^)「あの扉の向こうも特になんの手掛かりも無かったんじゃないかお。
        だから、八歩塞がりになった僕たちは諦めて、救助を待つことにしたんじゃないかお。
        もう忘れちゃったのかお?」


そんな事を言われても、忘れてしまったんだからしょうがありません。
馬鹿にするような眼を向けるブーンに、飛び蹴りを食らわしてやりました。
派手に吹っ飛び、壁に激突する姿を見て、私は満足げに鼻を鳴らしました。

ただ、その時に見せたブーンの怯えた瞳を、忘れる事は無いでしょう。


30 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 19:38:50.34 ID:YAowBMNc0
それにしても、何だか体がとても動かしやすいです。
どうしてだろうと自分の体を眺めてみると、服装が昨日とは違うものになっていました。

昨日は確か、タットルネックのニットワンピースを着こんでいた筈です。
スカートの類はあまり穿かないのですが、デートをするというのにあたって、
少しでもおめかしして行こうと思っていたのですから、間違いありません。

ですが、今は、上下とも赤の、くたびれたジャージ姿になっていたのです。
動きやすいのですが、あまり恋人に見せたい格好ではありません。

その筋の事を聞いてみると。


( ^ω^)「それはそれで新鮮な感じがたまらねぇお」

だそうです。
男の人の発想はよく分かりませんし、やっぱり気恥ずかしくて、素直に喜べませんでした。


32 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 19:41:43.48 ID:YAowBMNc0
どうして着替えた事が思い出せないのでしょう。
自分で見直して、おかしいと思う格好になることを、自ら進んでなるとは思えません。
着換える時の私は、一体何を考えていたのでしょうか。

それに、ええと、下着を付けていないみたいです。
やけにスースーするなと思ってはいたのですが、服の下を覗き込んで卒倒しそうになりました。
幸い、Tシャツは来ていたので、強くアレが擦れてしまうことはありませんでしたが。


( ^ω^)「…………」

ブーンが、そんな私の異変に気付いたのか、やけに胸元をジロジロ見てきます。
そのいやらしい視線は、耐えられるものではなかったので、急所を思いきり蹴りあげてやりました。
悶絶しています。ざまぁ。


34 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 19:43:56.01 ID:YAowBMNc0
さて、やっぱり記憶がないことが、どうしても腑に落ちませんん。
ブーンはあそこの扉の向こうには何も無かったと言ったけど、自分の目で確認してみないことには、納得出来ませんでした。

それは、見落としがあるかもしれないという気持ちもあったけど、
本当のところは、中を見てみれば、記憶が取り戻せるかなと思ったのが大きな要因でした。


つかつかと扉に歩み寄るより、ドアノブに手を掛けました。
すると、差し出したその手を、更に掴む手がありました。ブーンのものです。

( ^ω^)「…………」

なんでしょうか。

( ^ω^)「その先には何もないお、だからご飯でも食べようお。
        僕はもう、お腹がペコペコなんだお」

知りません、自分で作ってください。


38 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 19:46:27.05 ID:YAowBMNc0
私が少々、イラついた言葉で返したからでしょうか。
ブーンの手がぱっと離れてしまいました。
怒らせたのかと思い、焦ってしまいましたが、どうやら違うようです。

( ^ω^)「……別にいいお、ツンが行きたいのならそうすればいい。
        でも、いいかお?
       『その先には何もない』ということは分かっていて欲しいお」


いつになく真剣な表情で語るブーンに、私は思わずたじろいでしまいました。
ドアノブを握ったままの手にも、汗が滲んでしまいます。

しばらくの間、見詰め合ったままの均衡状態が続きました。
その時、私の心には僅かに、ブーンの言葉に従う意思が生まれていたように思います。

それでも、手に込めた力が緩むことはありませんでした。


41 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 19:48:18.16 ID:YAowBMNc0
ちっぽけな反抗心だったのかもしれません。
いつも主導権を握っているのは私なのに、突然ブーンがそんな態度をとったことに対して、戸惑いがありました。

それに、好奇心もありました。
行くな行くなと言われれば、行ってみたくなるのが人間というものです。
もちろん、元よりの理由も踏まえた上で、扉を開こうとしている訳なのですが。

視線をブーンから、改めて扉へと戻し、ドアノブを捻りました。
その直後、ブーンはもう一度、呪いをかけるかのごとく、私に言葉を送ります。


『その先には何もないお』と。


44 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 19:51:17.06 ID:YAowBMNc0
…………?

目を覚まし、瞳に飛び込んできたのは見知らぬ天井。
私は理不尽に繰り返す現実に、大きく息を吐き、落胆の色を露わにしました。

今日も体の節々が痛んでいます。
痛みは激しくなっているようで、今日は起き上がるのも辛いくらいでした。
良い吉兆は起きないというのに、こんなことばかりは、目まぐるしく変化していきます。


外の天候は曇り、昨日の雨が治まったというところでしょうか。
灰色の空は、陰鬱な私の心をそのまま映しているかのようです。

私は振り向きもせず、背後に感じる気配に問いかけました。

ねぇ、昨日は何があったのですか?


47 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 19:52:52.06 ID:YAowBMNc0
( ^ω^)「……何もなかったお。
        ツンが作ったご飯はとっても美味しかったけど」

ブーンは口調に大した変化も見せず、答えました。
キッチンを見ると、綺麗に洗われたお皿が、ピカピカと輝いています。

覚えは当然ありませんが、私が料理を作ったというのは本当のことなのでしょう。
料理を褒められたことを喜ぶことも出来ないのは、今はそんなことに感心が持てないから。


(;^ω^)「えと、朝ごはんも作ってくれるんじゃなかったのかお?」

それでも、ブーンの純粋無垢な瞳を裏切ることは出来ません。
私は重たい体を引きずり、歩き、キッチンの前に立ちました。
使われた形式のある台所用品は、どれも私が使いそうな物ばかりでした。


52 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 20:00:14.36 ID:YAowBMNc0
料理を作る準備をしながらも、頭ではまるで別の事を考えます。

どうやら、あの扉を越えると、私の記憶は途切れてしまうようでした。
それが何故なのかは分かりませんが、その結果だけは確かです。
記憶や脱出など、全ての目的はあの場所にあるというのに、辿り着けないというのは物悲しいものです。


――冷蔵庫の食品を漁ります。

それに、ブーンの対応があまりにも不自然すぎます。
言ってしまえば、本当に何も無かったのなら、何も無いなどと連呼したりはしないはずです。
何かあったからこそ、否定を続けているのだと思うのです。

――卵とベーコンを取り出します。

しかし、ブーンは答えてくれないし、自分で扉の先を確認することは出来ません。
未だ不確定な、自分の記憶を探っていくしかありませんでした。


55 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 20:03:17.16 ID:YAowBMNc0
――フライパンに油を敷きます。

とりあえずですが、あの扉の先の事を考えるのは後回しにします。
もっと大事な何かを忘れている様な気が、ずっと前からしていたからです。
辿っていく記憶の糸は、ブーンとデートしたあの日の事です。

――ベーコンをフライパンで炒め始めます。

遊園地で遊んでいたことを思い返します。
ブーンも私もずっと笑顔で、とても楽しくて、子供の様にはしゃいでいました。
何かが狂い始めたのは、その帰り道のことでしょうか。


―――しばらくして、卵を足します。

夕焼けが真っ赤に燃えていたのが、印象的でした。
寄り添った影は細く伸びていて、スリムになった等と冗談を言ったりもしてたはずです。
私たち二人は手を繋ぎ、暗くなる前に帰ろうと、興奮冷めやらぬ心持のまま会話していました。


57 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 20:06:15.48 ID:YAowBMNc0
――ふと気付くと目の前にブーンが立っていました。

問題はここからです。
この先の記憶がどうにも曖昧で、思い返すことが出来ません。
細くなっていく記憶の糸を、離さないようにしっかりと握り、手繰り寄せます。

――彼は言いました『それ以上は止めるんだお』と。

少しずつではありますが、ぼんやりとした何かが見えてきました。
初めに見えたのは、私達のものではない、もう一つの黒い影。
背筋がゾクリとした覚えがあります。笑顔なんてものは跡形もなく消え去っていました。

――瞳は真剣そのもので、怒っているようにさえ感じました。

その影がふらりふらりと揺らめきながら、私達に近付いてきます。
ブーンが私を背にし、壁になり、守ってくれていました。
それでも、影の歩みが止まることはありません。


61 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 20:09:50.67 ID:YAowBMNc0
――私の料理をする手も止まっていました。

影の右手は太陽の光を反射し、眩い輝きが私達の目に飛び込みます。
ブーンはそれを見てたじろぎ、私は体の動きを奪われてしまいました。
その時、感じたのは、紛れもない恐怖だったと思います。

――視線を落とすと、ベーコンエッグはすっかり焦げていました。

瞬間、影が駆け抜けました、
真っ直ぐに、私達の方へと、凄まじい速度で襲いかかります。
生きた人形と化している私を横目に、ブーンは一歩前に踏み出しました。

――訳も分かりませんが、全身が震えだしました。

影はブーンと重なると、幾許かの間、静止しました。
動かない私のことも踏まえると、その場は時が止まっているかのようです。
すると、近くで視線を送ることしか出来なかった私の耳に、ぽたぽたという音が聞こえ始めました。


62 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 20:12:14.98 ID:YAowBMNc0
(#^ω^)「それ以上は止めるんだお!」

はっと気付くと、家中に轟く怒鳴り声が、私の耳に届きました。
ブーンは私の肩を掴んでいましたが、その力は恐ろしく強いものでした。
思わず、顔を歪めます。

(;^ω^)「ご、ごめんだお……でも、もういいから休んだ方がいいお」

ブーンは私に記憶を探るのを止めさせたいようでした。
心優しい微笑みを見せてはいますが、最早私の心を照らすことは出来ません。
忘れていたはずの記憶が、次々に流れ込んできていました。


(;^ω^)「ツン、ダメだお、それを口にしてはいけないんだお」


ブーン、大好きな、ブーン。

ありきたりな、使い古された言葉だけど、これが本心だからしょうがないのです。

私は、世界で一番貴方を愛していました。

だけど、だけど、だけど……。


64 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 20:14:28.71 ID:YAowBMNc0


ξ;⊿;)ξ「ブーン、貴方はもう、死んじゃってたんだね」


私が言い終えるのと同時に、ブーンの体は音も立てずに消え去りました。

いえ、元々そこには存在していなかったのですから、その言い方は正しくないのかもしれません。

それでも、私は溢れ出る涙を、抑えることが出来ませんでした。


66 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 20:16:26.67 ID:YAowBMNc0
…………ああ。

私は今、あの扉の向こう側にいます。
全ての疑問には答えが導き出されていたので、迷いはありません。
扉の先では、醜く肥えた男が、品の無い笑みを浮かべて私を待ち伏せていました。


「ひ、ひひ、ツン、俺だけのツン、相変わらず美しいね。
  今日もたっぷり可愛がってあげるから、早くこっちにおいで」

汚らしい体に備わった肉棒は、いきり立ち、私を狙いすましていました。
込み上げる吐き気を抑え、呼吸を落ち着かせます。

もう、忘れることも、逃げることも許されません。

ブーンは、この男に殺されました。


70 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 20:20:20.39 ID:YAowBMNc0
遊園地の帰り、ブーンと私は、人気のない路地を歩いていました。

そこに突如現れたのは、包丁を持った醜い男です。
私は以前、その男にストーカー被害を受けていました。
彼は犯行の果てで、包丁を持って私を追い回し、警察に現行犯で逮捕されました。

その男が、目の前に再び包丁を持って現れたのですから、私は一切の行動を起こすことを封ぜられてしまいました。
彼の右手に持った刃が一瞬だけ光った後、襲いかかってきます。
それをブーンが身を盾にし、守ってくれたのでした。


しかし、男の目的は、はなから私の恋人であるブーンの様でした。
狂ったような笑い声を上げながら、ブーンに刺した包丁を抉り、何度も何度も突き刺しました。

(   ω )「ツン、逃げるんだお」

最後の気力を振り絞って、ブーンが擦れた声で言いました。
ですが、愛している人が無残な目にあっているというのに、どうして見捨てて去ることが出来るのでしょうか。


75 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 20:23:46.21 ID:YAowBMNc0
ブーンの体がよろめき、地面に音を立てて崩れ去ります。
その瞬間、男の視線が私に移りました。私は戦慄を覚えました。
男の瞳は黒く淀んでいて、果てない深淵がその奥に続いているかのようだったのです。

ブーンの血を滴らせたまま、男が私に近づきます。
私はあまりの恐怖からか、そのまま気を失ってしまいました。


「ほら、いつもの様に服を脱いでごらん?
 反抗しなければ、僕だって乱暴したりしないよ」

記憶の旅から私を連れ戻したのは、興奮した様子の男の声でした。
初めてこの場所に来た時も、気づくと男の顔が目の前にあった気がします。
つまり、私は気絶した後、ここに連れ込まれ、監禁されていたのです。

私はいつもの様に、いえ、ブーンがしていた様に服を脱ぎました。

このマンションにいたブーンの正体。
それは、他ならぬ私自身だったのです。


77 名前: ↑修正 投稿日: 2008/11/08(土) 20:28:26.28 ID:YAowBMNc0

扉の向こう、つまりこの部屋で、私は犯され続けました。
その事実に精神が耐えきれなくなり、遂にはブーンというもう一つの人格を作り上げました。
愛していた恋人が一緒にいることで、安心することが出来たのです。

いつしか、この男と営みをせざるを得ない時、私はブーンに体を預けるようになりました。
今までの記憶も、それと同じくして、忘却の彼方へと置いていきました。

だから私には途切れ途切れの記憶しかなく、この場所の記憶が抜け落ちていたのです。
死してなお、ブーンは私を守ってくれていたのです。


ですが、それも、終わりです。
甘え続けるのも、脅えているのも、もう御免です。


81 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 20:32:33.27 ID:YAowBMNc0
ブーン、御免なさい。

こんな醜い男に抱かれ、犯されるのはさぞかし気持ちの悪かったことでしょう。
私の体に残った痕が、物々しさを明確に語っています。


全てを今、終わらせましょう。


私は男に近づき、頬笑みを投げかけました。
醜い顔にあった僅かな緊張を溶かし、男は唇を前に突き出します。
私はそれに応え、口付を交わしました。


86 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 20:35:51.26 ID:YAowBMNc0

同時に後ろ手にあった包丁を気付かれないように、男の首に突き立てます。
少しだけ躊躇した後、全体重を込めて、刃を差し込みました。

鮮血が飛び散りした。
ですが、不快な気持は湧きません。


ブーンを殺した男の血です。

世界で一番憎い男の血です。


それを目の前にして、歓喜に震えるのは当然の事でした。
深く深くねじ込んだ後、引き抜き、もう一度突き刺します。


90 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 20:37:45.63 ID:YAowBMNc0
初めは呻き声を上げていた男も、3度目の突きの時には、呼吸さえ漏らしませんでした。
それでも、私の体が動きを止めることなどありませんでした。

顔も、腕も、胴体も、足も。
傷が付いていないという場所には、全て包丁を突き刺しました。
肌色の部分を残さぬよう、満遍なく傷跡を付けてやりました。


その時の私は、満面の笑みを浮かべていたと思います。
包丁を突き刺す音の背後に、狂ったような笑い声が聞こえていたからです。
もっとも、その殺戮の間は、それが自分のものだと気付くことさえ出来ぬほど、夢中になっていました。

殺意では済まない恨みが、ソレにはあったからです。
既に男と呼べぬ肉塊と化しても、振り上げ、振り下ろす手は止まりません。
無心で行うその様は、機械であったと言って良いでしょう。


92 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 20:39:49.04 ID:YAowBMNc0
しばらくすると、体の限界が訪れ、ようやく私の動きが止まりました。
握力がなくなったせいか、カランカランと音を立てて、包丁を落とします。

部屋の中は、元よりの色が見えぬほど、赤く染め変えられていました。
それが全てあの男のものだと思うと、歓喜する気持ちは爆発するかのようです。
ですが、ぬちゃぬちゃとした血に濡れる自分の手を見ると、悲観もまた同様に訪れました。

目の前の肉塊を見る分には何も思いません。
臓物すら飛び出している酷い有り様には、どこかリアリティを感じなかったからです。
唯、酷く臭います。鼻を覆うにしても、血は拭えないので無駄としか思えませんでした。

私は座り込みます。

これで、あらかたの用事は済みました。


97 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 20:42:00.66 ID:YAowBMNc0
男は恐らく、私と共に心中するつもりだったのでしょう。
あの鍵の量は、恐らく備え付けた自分自身でも解除するのは不可能だと思えます。
ですので、その願いを叶えることになるのは、少々癪なものがありました。
もっとも、致し方ないことではあるのです。


さて、先ほどから懺悔ばかりでごめんなさい。
ブーン、貴方の気持ちを裏切ってしまうことになります

貴方は恐らく、辛いことがあろうと、生きていけと言いたかったのでしょう。
その心で不幸を受け持ち、不幸など無かったと私に思わせ、生き続けるように仕向けたかったのでしょう。
ですが、犯されることなど、私にとっては大した不幸ではありません。

ブーン、貴方がいないことに比べれば。


100 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 20:43:39.98 ID:YAowBMNc0
生きていくなら、貴方が隣にいなければならないのです。
生きていくなら、貴方に笑いかけてもらわなければならないのです。
生きていくなら、貴方に愛してもらわなければならなかったのです。

ブーン、

ブーン、

ブーン、

私には貴方がいなければならなかったのです。

貴方がいない事に気付いた時、私は既に死んでしまったのです。

仇をとった今、もはやこの世には何の未練も残されていないのです。


104 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 20:47:38.41 ID:YAowBMNc0
肉片がこびり付いている包丁を、もう一度、手にとります。
きっと、私の首はこの肉塊よりも柔らかいので、問題はないでしょう。

喉元に包丁を突きたてます。
ぶわ、と走馬灯が駆け抜けましたが、それは全てブーンのものでした。
もっとも、これだけ愛していても、ブーンには届くことがないのです。


ですが、あの時、ブーンが死んでしまうその時。
彼は最後の最後、逃げろという言葉の後に、一言呟いたのです。

走馬灯の中で、それを思い出しました。
こぼれ落ちる涙が、私の頬にこびり付いた血を、僅かに流していきます。
ブーン、貴方も私と同じ気持ちだったのですね。


108 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 20:51:57.68 ID:YAowBMNc0

( ^ω^)「ツン、死んでしまっても、僕は君を愛してるお」


ξ;⊿;)ξ「私も、私も死んでしまってもブーンを愛してるよ」



死の直前、首元から噴き出す紅が、視界を染める前。


私の瞳に映されたのは、希望の光。


ブーンという名の太陽でした。





―――ξ゚⊿゚)ξは監禁されているようです




111 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 20:54:33.76 ID:YAowBMNc0
誤字多すぎワロタ。
ていうか、スレタイ間違ってるんですよね。最後のが正しかったです><

バッドエンドにしようとは思ったんですが、無理でした。
バッドエンドに限りなく近い、ハッピーエンドといったところでしょうか。
二人の愛は死んでもなお、続いていくんでしょうねー。
羨ましい。愛されるよりも、愛したいマジで。

ありがとうございます。
読みにくくてすいません、お疲れ様でした。



114 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/11/08(土) 20:57:28.44 ID:/xIRG6f9O
>>111
明らかにバッドエンドだよ… ハッピーエンドに少し近づいたバッドエンド…



ニュース速報VIP板「ξ゚⊿゚)ξは監禁されたようです」より

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